北朝鮮のミサイル発射を受けて、日本も自衛隊に北朝鮮のミサイル基地を攻撃できる能力を持たせるべきだという議論が自民党内で再燃した。
火を付けたのは、山本一太氏や下村博文氏ら自民党の中堅・若手国会議員7人で発足させた「北朝鮮に対する抑止力強化を考える会」である。
初会合で、山本氏は「北朝鮮の脅威に見合った抑止力を考えるのは政治家の責務」として「日本独自で北朝鮮の基地を攻撃できる能力を持つ必要がある」と述べた。「考える会」は5月中にも提言をまとめるという。
以前から政府・自民党の一部にあった「敵基地攻撃能力保有論」ではあるが、この時期の議論再燃は北朝鮮脅威論に便乗した「先制攻撃論」に傾斜する危うさをはらんでいる。
現に「考える会」では、日本を標的としたミサイル発射基地への先制攻撃を検討すべきだとの声が相次いだという。
確かに、ここ10年余のミサイル発射や核実験などで、それまで漠然としていた北朝鮮の脅威は現実味を増した。日本列島全体を射程に収める中距離弾道ミサイル「ノドン」数百基を既に配備しているとの情報も伝えられている。
国民の間に「攻撃される前に北朝鮮の基地をたたくべきだ」という声が出るのも、感情論としては理解できる。
しかし、このような時だからこそ、政治には冷静な対応を求めたい。感情論に乗った短兵急な議論は避けるべきだ。
先制攻撃をも可能にする敵基地攻撃論は「自衛の範囲」の見直しにつながるだけではない。日本が防衛政策の基本としてきた「専守防衛」を空洞化してしまう恐れがある。
2006年夏に北朝鮮が日本海に向けてミサイル7発を発射した直後にも、同じような議論があったのを思い出す。
当時の麻生太郎外相、安倍晋三官房長官、額賀福志郎防衛庁長官が敵基地攻撃能力保有について議論の必要性を指摘した。3氏は後日「先制攻撃論ではない」と釈明したが、政府要人の相次ぐ発言に近隣諸国は強い懸念を表明した。
他国から攻撃を受けた場合「他に手段がない限り、誘導弾などの基地をたたくことは法理的には自衛の範囲に含まれ可能」(1956年、鳩山一郎首相答弁)というのが政府見解ではある。いまも、それは変わらない。
しかし、法理論としては可能であっても、歴代政権が選択した道は平和憲法の理念を尊重し、日米安保体制の下で「専守防衛」を基本とすることだ。
戦後、日本は他国を攻撃できる軍備を持たないことで、国際社会の信を得てきたのではないか。敵基地攻撃などの強硬論を声高に叫ぶ前に、その歴史の重みをあらためて考える時でもある。
脅威に対する抑止力は、何も軍事力を強化することだけではないはずだ。
=2009/04/20付 西日本新聞朝刊=